毎日売り場やレジに立っていると、毎日のようにご来店、お買い上げくださるお客様がいることに気付きます。
いわゆる「常連客」です。
お客様の回転が多いところ、例えば駅ナカや何フロアもある超大型書店などではなかなか把握しきれないかもしれませんが、あなたのお店がそうでなければ、そういう方が何人もいらっしゃることはすぐにわかると思います。
私がオススメする棚づくりのやり方の一つに、常連様向けに合わせて偏らせていくというものがあります。
実際に私がお店でやった例を今日はご紹介します。
平日、週に3−4日、12−13時の間に来店され、時代小説の文庫を2−4冊ご購入される男性の方がいらっしゃいました。
歳は大体60過ぎあたり。
背広は着たり着なかったりでしたが、足元は必ずサンダルでした。
おそらくお店の近くにある会社に務めてらっしゃる方だと思います。
何回か在庫のお問い合わせを受けて注文も受けたことがありました。
仮にこのお客様の名前を山田様としておきます。
山田様のことは私だけでなく他のスタッフも把握していて、
「今日山田様来たね」
「今日はこのシリーズに突入してたよ」
など、山田様についての情報を自然と共有していました。
ある日、文庫を担当するスタッフから
「在庫の入れ替えをしたいんだけど、どういった商品を選べば良いのか」と相談を受けました。
その時にふと、山田様の顔が思い浮かびました。
そこで、
「山田様がまだ読んでなさそうな作品をどんどん入れていくのはどうだろう?」
と提案してみました。
文庫担当は最初この提案に驚いていました。
「特定の方向けに在庫を揃えるなんて不公平」
「そもそもどんな本を持っているかわからない」
など、私の提案に消極的でした。
確かに文庫担当の言っていることはもっともなことです。
ただ、その時の私は
・不特定多数の顔の見えない客を相手にするより、顔の見える方をイメージした方が商品は探しやすくなる。
・来ない人よりも来てくださる人を大切にしたい
という思いが強かったので、話し合いの末、少しずつ試してみようとことになりました。
山田様向けに売り場を変えていく。
実際にやってみて一番困ったのは
「山田様の持ってなさそうな本ってなんだろう?」
ということでした。
お店でお買い上げくださった本はある程度把握していても、
それ以前にどんな本を読んでいたかは全くわからない。
とはいえ山田様に「どんな本を読んでましたか?と聞くのも変。
色々悩んだ末、結論は
「お店に在庫したことのないものをどんどん入れる」
というものでした。
大手出版社からそれほど有名でない出版社まで。
大御所から新鋭の作家まで。
とにかく注文履歴のない作品を棚に入れていきました。
すると、この変化に山田様も気づいたようで、会計の度に
「あのシリーズはもう読んだことがあるんだよね」
「これは知らなかったなあ」
ど、色々とお話ししてくださるようになりました。
こうなると文庫担当も私も、そして
他のスタッフも調子に乗っていきます。
「こんな作家見つけたけどどうだろう」
「このシリーズってまだ読んでなさそうだよね」
スタッフみんなで山田様に受けそうな作品を探していきました。
気づけば文庫棚の半分以上を時代小説が占めるほどの極端な棚構成が出来上がりました。
そして、この棚構成にしていく中で、山田様はもちろんのこと、他のお客様からも
「このお店は時代小説が揃っていていいね」
というお声をいただくようになりました。
結果、文庫の売り上げが大きく伸びました。
山田様だけでなく、時代小説のニーズがあったということがわかったのです。
この「山田様シフト」はある日突然終わりました。
山田様がある日突然来られなくなったのです。
「そういえば最近お見かけしてないね」
「病気になったのかしら」
という会話をかわしていく中で、結論は
「定年退職された」
というものでした。
山田様が来られなくなってしばらくは「山田様シフト」を残していたのですが、また別の常連様がいらっしゃるようになったので徐々に棚構成を戻していきました。
一人のお客様に焦点を当てると、その方の周りに何人ものお客様がいる。
そして、そこから輪が広がっていく。
そのことを肌で感じた私たちは、文庫だけでなく他の売り場でもこのことをベースに商品構成を考えるようになりました。
あなたのお店にも常連様がいらっしゃると思います。
1冊、2冊だけでもいいのでその方を思いながら本を注文してみてください。
きっとその本が、売り場が今以上に輝いていくと思います。
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